抗がん漢方について
どんな生薬がどんな作用をするのでしょう

統合医療の時代へ

西洋医学の発展によって、がん治療は目覚ましい進歩を遂げました。たとえば外科手術は麻酔技術の向上によって、がんの手術に限らず、あらゆる外科手術を可能にしました。また、放射線療法や化学療法を手術と併用することで、治癒率や延命率も高まっています。

しかし、これら西洋医学によるがん治療には、残念ながら現時点ではどうしても乗り越えられない限界があります。それは、がん細胞を見つけ、それを取り除くことや殺傷することに専念するために、治療が身体全体に及ぼす影響については目をつぶらざるを得ないという点です。

たとえば手術でがん細胞を除去する治療法は初期がんには極めて有効ですが、中期以降の転移がんには難しいという問題があります。また、放射線療法や化学療法ではがん細胞だけを殺すことは不可能で、結果的に周囲の正常細胞も殺傷してしまうため、それによって生じる副作用の問題を避けて通れないのです。そして、この副作用ががん患者を精神的にも肉体的にも苦しめることになってしまっています。

こうした状況のなかで、がん治療に限って言えば、西洋医学に限界を感じている医学者が増えています。西洋医学が得意とする病巣や局部に対する治療法に加えて、身体全体を見つめ、その歪みを正して免疫力を高め、人間本来が持っている自然治癒力を生かす治療法が大切だという考え方、つまり「ホリスティック医療」や「統合医療」に目が向けられてきています。これらは、西洋医学に漢方療法や心理療法、さらには民間療法なども取り入れた統合的な治療法です。

抗がん漢方薬の成果へ

その統合医療の場でも漢方がとり入れられておりますが、その中で、中国の秘境―"薬草の宝庫"として有名な長白山の天然生薬を中心に処方された抗がん漢方の「天仙液」が成果を上げています。

たとえば手術を受けた初期がんの患者に対しては、転移や再発の予防に。また手術ができない場合が多く、絶えず転移や再発の危険性をはらんでいる中期以降の進行がんでは、放射線療法や化学療法と天仙液を併用することで、副作用の軽減はもちろんのこと、治療の有効性が高まるという結果が出ています。さらに、手の施しようのない末期がんの患者にとっては漢方薬が最後に残された道である場合が多いですが、天仙液を服用してがんを克服した例がいくつもあります。

医科学的な根拠に成り立つ西洋医学の視点からは、科学的に立証できない点が多い漢方薬の効果は受け入れがたいものなのかもしれません。ましてや、中国3000年の歴史に培われた漢方医療の考え方や理論を現在の医科学で立証しようとするにはまだまだ時間がかかるに違いありません。しかし、局部的な治療法だけではなく、身体全体を見つめる医学を考え、実践していこうとするとき、漢方医学は大いに力を発揮します。そして、がん治療におけるひとつの好例がこの天仙液というわけなのです。

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抗がん漢方に主に使用される薬草を紹介

  • 人参の画像

    人参(にんじん)

    朝鮮人参、高麗人参と呼ばれる薬効の高い生薬

    人参は、ウコギ科オタネニンジンの根を乾燥させた生薬です。中国東北部や朝鮮半島に自生している薬用植物として、日本でも古くから「朝鮮人参」として知られ、貴重な生薬として有名です。高麗人参とも呼ばれたりしますが、単に人参と通称されています。漢方の古典医学書『神農本草経』には最高の「上品」と記載されており、多くの薬効が知られてきました。

    人参は栽培することが困難とされていましたが、18世紀はじめに李氏朝鮮で初めて栽培に成功したことから、元来は「人参」と呼ばれていたものが、「朝鮮人参」という名称が親しまれたのでしょう。

    人参は栽培物より自生する天然物の方が薬効は高いのですが、野生の人参は採取が非常に困難で、産地でも高値で取引されています。なかでも中国東北部の北朝鮮との国境にある長白山で自生する人参は「長白人参」と呼ばれ、最高の品質とされています。長白山は"薬草の宝庫"といわれるほど、多くの良質な薬草が育つことで有名です。その理由は、火山特有の微量元素や薬理価値の高い成分などで形成された土壌と冬は極寒の地である厳しい成育環境があるからです。

    ●成分と薬理作用・効能

    主な有効成分としてジンセノサイドと呼ばれるサポニン群があり、糖尿病、動脈硬化、滋養強壮に効能があるとして、古くから用いられてきました。また12種類のサポニン、14種類のアミノ酸、ポリペプチド、多糖類、ビタミン、二コチン酸、それにナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、銅、亜鉛、ゲルマニウムといった微量元素など、実に多くの薬効成分が含まれています。また人参は単体だけではなく、他の生薬と配合、処方することで薬効を強める働きがあるのです。

    人参中の多糖類には肝臓の保護作用、免疫機能向上作用、細胞変異抑制作用などがあり、総体としてがん細胞の成長を抑制することも複数の実験によって確認されました。抗がん剤と併用したときには副作用を軽減するとともに治療効果を高めます。

    さらに、胃がんや大腸がんに対する一定の治療効果も確認されていて、服用する前には免疫細胞が減っていた患者さんが、服用した後には免疫細胞が増加したとする臨床データもあります。末期がん患者さんに対しても免疫細胞の機能を高めるなど効果もあり、各種がんの手術後の回復にも寄与しています。

  • 冬虫夏草(とうちゅうかそう)の画像

    冬虫夏草(とうちゅうかそう)

    昆虫が寄生した菌で、人参と同じ貴重な生薬

    「夏は草となり、冬は虫となり・・・・効は人参と同じ」(『本草網目拾遺』)と記されているように、冬虫夏草はコウモリガ科の蛾の幼虫に寄生するバッカク菌科に属する真菌(キノコの一種)で、菌糸体と子実体があります。この菌が冬は虫の姿で過ごし、夏になると草の姿になることから、冬虫夏草と呼ばれています。中国では別名『中華虫草』とも称されます。

    チベット高原や中国の高地で採集されるのが最高級とされていますが、昆虫に寄生する菌数は他にも自然界に存在しています。また最近では、菌種を採取して人工栽培で作られるものもあり、それらも合わせて冬虫夏草、中華虫草と呼ばれることがあります。

    現在、400種類ほどの天然の冬虫夏草が発見されていますが、なかでもチベットの冬虫夏草や中国高地に自生する北冬虫夏草には、有効成分が多く含まれていることで知られ、貴重な生薬となっています。

    ●成分と薬理作用・効能

    有効成分として各種の多糖類、虫草酸(D-マンニトール)、デオキシアデノシン、コルジセピン、セレン、SOD、ビタミンB12などを含み、免疫系や内分泌系、心臓循環器系、腎臓泌尿系などに効能があります。また抗がん作用においては免疫賦活作用として、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性化、単球やヘルパーTリンパ球の活性化作用が認められています。

    さらに動物(マウス)実験では、冬虫夏草の菌糸体熱水抽出物が、総コレステロール値およびLDL(悪玉)コレステロール値を低下(改善)させ、HDL(善玉)コレステロール値を上昇(改善)させました。抗がん作用による基礎研究では、がん細胞を移植した動物実験で、冬虫夏草を投与したところ、延命効果が認められました。

    また、人工培養をした冬虫夏草が多くありますが、その薬用試験や臨床試験も行われています。こうした人工培養の冬虫夏草のなかで、"漢方の本場"である台湾において、天然(野生)の冬虫夏草の菌種を採取して、米を栄養床とした冬虫夏草が研究開発され、注目されています。成分は天然ものと効果とも変わりませんが、コルジセピンの含有量が圧倒的に高いことが分りました。その人工培養と天然の冬虫夏草の主要成分の比較したものが下記の表です。

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    霊芝(れいし)

    「命を養う延命の霊薬」として古くから珍重

    霊芝は、サルノコシカケ科マンネンタケの子実体(キノコ)で別名、万年茸、門出茸、吉祥茸などと呼ばれています。

    漢方の古典医学書である『神農本草経』には「命を養う延命の霊薬」と記載されており、薬用として様々な用途で用いられてきました。

    ●成分と薬理作用・効能

    有効成分としてβ-D-グルカンなどの多糖類、ガノデリン酸などの卜リテルペン類が多く含まれており、免疫活性作用や抗がん作用があります。

    多糖類と卜リテルペン類は、霊芝の成分に関する基礎研究において、免疫細胞であるマクロファージを刺激して、TNF-α(腫瘍壊死因子α)やIL(インターロイキン)-10といった物質産生することが報告されています。

    また、栽培菌子体から分離されたテルペン類は、肝臓がんを抑制する作用があり、これはガノデリン酸の働きであるとされています。さらに抗腫瘍作用のほか、血糖値上昇抑制作用、放射線防御作用、抗酸化活性作用などが認められています。

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    黄蓍(おうぎ)

    多くの漢方薬に処方され、免疫増強作用を発揮

    マメ科キバナオウギの根から精製される生薬が黄蓍です。中国東北部が主要な生育地の高山植物で、淡黄色の蝶形の花を咲かせます。同種のナイモウオウギの根も生薬となります。

    ●成分と薬理作用・効能

    フラボノイド、サポニン、ソーヤサポニン(大豆サポニン)、γ-アミノ酪酸(ギャバ)、多糖類、単糖類や微量元素などの有効成分が含まれています。

    薬理作用は免疫増強作用、止汗、強壮、利尿、血圧降下作用などがあり、抗腫瘍や肝機能不全、急性・慢性腎炎をはじめ、虚弱体質、栄養不良の改善などに用いられます。免疫増強作用では、生体の病原微生物に対する免疫効果、Tリンパ球の機能強化などが確認されています。また、黄耆に含まれている糖質は、細胞組織のもつウイルスに対してインターフェロンを誘発して、ウイルスやがん細胞の成長を抑制する作用があります。

    黄耆は多くの漢方薬に処方されル重要な生薬の一つで、黄耆建中湯、十全大補湯、防己黄耆湯、補中益気湯などが知られています。

  • 白朮(びゃくじゅつ)

    白朮(びゃくじゅつ)

    「水毒」を除く妙薬で利尿、発汗を促す

    白朮には、大きく分けて2種類あり、オオバナオケラの根茎を乾燥させたものを唐白朮、オケラのものを和白朮といいます。花はごくうすい紅色でアザミに似た形をしており、オオバナオケラは中国東北部や朝鮮半島に自生しています。日本でもオケラは自生しており、京都の八坂神社では正月に白朮(オケラ)を焚く「白朮祭(おけらまつり)」として知られています。

    ●成分と薬理作用・効能

    白朮には油精分(アトラクチロン、3-β-アセトキシアトラクチロンなど)、クマリン、糖質などの成分が含まれていて、消化管および皮下組織中に起こる水分代謝の不全に対して、利尿、発汗を促して、漢方でいう「水毒」を除く妙薬として、腎臓機能の減退に尿利の減少、身体疼痛、胃腸炎などに用いられています。

    また、免疫機能を高めることでがん細胞を殺傷する作用、抗がん剤、放射線治療によって減少した免疫細胞を回復、増加させる作用があります。

    白朮は人参、甘草、伏苓などとともに知られる重要な生薬で、四有子湯や五苓散、健脾湯などの漢方薬が有名です。

  • 山薬(さんやく)

    山薬(さんやく)

    滋養、強壮の要薬として多くの漢方薬に処方

    ヤマイモ科ナガイモ、ヤマノイモの根茎の皮をむいて乾燥させて生薬としたものが山薬です。ナガイモはヤマノイモ(山芋、自然薯)と異なり、中国原産で17世紀に日本に移入されましたが、現在ではヤマノイモ、ヤマイモと呼ぶことがあります。元来は野生の植物で、秋の収穫期には地上に枯れ残ったツルを目当てに探し、人がイノシシと取り合ったといいます。

    ●成分と薬理作用・効能

    ヤマイモ科ナガイモ、ヤマノイモの根茎の皮をむいて乾燥させて生薬としたものが山薬です。ナガイモはヤマノイモ(山芋、自然薯)と異なり、中国原産で17世紀に日本に移入されましたが、現在ではヤマノイモ、ヤマイモと呼ぶことがあります。元来は野生の植物で、秋の収穫期には地上に枯れ残ったツルを目当てに探し、人がイノシシと取り合ったといいます。

    漢方では古くから「ヤマイモはスタミナがつく」と用いられてきたように、滋養、強壮、男性ホルモンの増強をはじめ、止瀉、止渇作用があります。また、山薬が処方された漢方薬としては、八味地黄丸、六味丸などが有名です。

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    珍珠(ちんじゅ)

    動物性の生薬として古くから珍重

    珍珠は、漢方の古典医学書『開宝本草』(973~974年)に「真珠(しんじゅ)」の原名で収載されています。アコヤガイ(シンジュガイ)、クロチョウガイなどの外套膜組織にできたカルシウムの結晶と有機質層(主にタンパク質コンキオリン)が交互に積層した結果、真珠層が形成されたものです。一般的にいう宝飾品の真珠の一種を精製した生薬が珍珠で、植物性のものが多い中で、動物性の生薬として古くから珍重されてきました。

    ●成分と薬理作用・効能

    主要成分は炭酸カルシウム、有機物、有機物中のアミノ酸はロイシン、メチオニン、アラニン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸などが含まれ、その他微量元素が含まれています。

    薬理作用としては、抗ヒスタミン作用、鎮痛作用、解熱作用があります。また抗アレルギー作用、精神安定作用、新陳代謝促進作用があり、動物(マウス)を用いた試験では、心臓、脳の組織中のリポフスチンを下げ、酸化物質(フリーラジカル)を除去する作用が認められました。

  • 女貞子(にょていし)の画像

    女貞子(にょていし)

    オレアノール酸は強心、利尿作用に臨床応用

    女貞子は、モクセイ科トウネズミモチの果実を精製して生薬にしたものです。トウネズミモチは中国中南部原産の常緑高木で、その果実が紫黒色に熟して、これを乾燥させて生薬とします。冬でも葉が緑を保っている様子を"貞女"になぞらえて、女貞子といわれています。

    また焼酎につけた女貞酒は、滋養、強壮の薬用酒として古くから有名です。

    ●成分と薬理作用・効能

    女貞子の成分にはオレアノール酸、ペツリン、ルペオール、マニトール、オレイン酸、リノレン酸、パルミチン酸などが含まれています。薬理作用はオレアノール酸は強心、利尿作用があります。また脂肪酸が含まれており、血清脂質の低下作用をはじめ、鎮咳作用、免疫増強作用があります。

    さらに内臓の諸器官、特に肝臓、腎臓を強くして、精力を養い、強壮、強精薬として用いられています。臨床応用では眼科にもよく利用されています。視力が減退する、目がかすむなどは肝腎陰虚の症状とされ、有名な六味地黄湯に配合されています。

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    甘草(かんぞう)

    漢方薬の7割に処方されるオールマイティー生薬

    甘草は、マメ科甘草の根茎からつくられた生薬で、中国東北部、北アメリカ、地中海、中央アジアなどにも自生しており、古くから世界中で知られています。日本では奈良時代に唐の文化とともに渡来して、正倉院にも生薬が保存されています。

    また甘草には甘味成分のグリチルリチン、ブドウ糖などが含まれていて、食品などの甘己成分として使用されています。

    ●成分と薬理作用・効能

    甘草は漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬で、日本製の漢方薬の7割ほどに用いられており、各生薬の作用を調和する働きがあるために配合されています。 主成分はトリテルペノイド配糖体(サポニン)で、その代表的成分はグリチルリチンです。またフラボノイド化合物、甘草酸のカリウム、カルシウムなどが含まれています。

    薬理作用は免疫増強作用、鎮痛作用、鎮咳作用、抗消化性潰瘍作用、抗炎症作用があります。またグリチルリチン酸とその誘導体は、マウスによる移植骨髄がんの実験で抑制作用を示し、抗白血病作用を有することが認められました。

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    天花粉(てんかふん)

    医学古典書『神農本草経』には熱病の効能

    天花粉は、ウリ科トウカラスウリ、キカラスウリ、オオカラスウリの根から精製された生薬です。古典医学書『神農本草経』では「括楼根」として記載されており、熱病による口渇などの効能がある生薬となっています。また根のデンプンを精製して粉末にしたものは粒子が細かく、あせもなどの予防や症状の軽減などに用いられ、シッカロールとして知られています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分には多量のデンプン、アミノ酸、サポニン、タンパク質が含まれており、抗消化性潰瘍作用、インターフェロン誘起作用があります。『神農本草経』では「邪熱を排除し、気を補う」作用があると記されています。清熱解毒、排膿消腫、生津止渇作用があるとされ、漢方薬の処方として柴胡桂枝乾姜湯、柴胡清肝湯などが知られています。

    また最近の基礎研究では、抗腫瘍作用があることが認められています。マウスの実験では、肝臓がん腹水型に一定の治療効果が認められ、腹水量を減少させて生存期間を延長させるとともに、移植した肝臓がんへの抑制効果も示しました。

  • 白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)の画像

    白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)

    中国では古くからがん予防のお茶として飲用

    白花蛇舌草は、アカネ科フタバムグラ属の白花蛇舌草の根を含む全草を乾燥した生薬です。2枚の葉が対になっていることから、フタバムグラの名があります。煎じ薬として刺激が少なく、飲みやすいのが特徴で、中国では古くからお茶のようにして、がん予防などに飲まれています。

    ●成分と薬理作用・効能

    有効成分はアルカロイド、強心配糖体、フラボン類、クマリン類、アントラキノン類、それに蛇舌草素などです。肝臓の解毒作用を高めて、血液循環を促進し、白血球、マクロファージなどの機能を高めて、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高める作用があります。消化管胃がん、大腸がんにも効果があると報告がなされています。

    また白花蛇舌草からの抽出エキスでは、マウスの子宮頸がん、マウスの肉腫、肝臓がんなどへの抑制効果も確認されました。

    清熱解毒、利尿消腫、活血止痛などの臨床応用に用いられており、生薬として明らかな毒性がなく、多くの漢方薬に処方される生薬です。

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    青黛(ちんたい)

    手間のかかる生薬だが、治験で抗腫瘍作用が報告

    青黛は、いろいろな植物から精製される生薬です。ただし、生薬にするにはとても手間がかかります。シャクソウ科のマラン、マメ科のキアイ、タデ科のアイなどから茎葉を採集して、水を加えて発酵させ、石灰を加えてかき混ぜて、液面に浮いた藍色の泡沫をすくい取り乾燥させたものが生薬となります。鮮やかな青藍色になることから、藍染めに用いられることで知られています。

    ●成分と薬理作用・効能

    主成分はインドキシル配糖体インディカン、インディゴ、インジルビンなどです。なかでも抗腫瘍作用のある成分とされているインジルビンは、単核マクロファージ(免疫細胞の一つ)の貪食機能、免疫機能を高めることができます。

    臨床応用では、慢性白血病における治験で治療効果を得ると同時に、放射線治療、抗がん剤との併用で副作用が軽減されたという報告がなされています。清熱解毒、涼血散腫の効能が認められており、抗がん漢方薬に生薬の一つとして処方されるなど、抗腫瘍作用が報告されてから注目されています。

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    猪苓(ちょれい)

    中国産の「唐猪苓」が最高の品質

    猪苓は、サルノコシカケ科チョレイマイタケ(キノコの一種)の菌核からつくられる生薬です。日本産はくびれが多く、やや軽質で「真猪苓」と称され、中国産は凹凸が少なく硬質で「唐猪苓」と称され、最上質とされています。

    ●成分と薬理作用・効能

    ステロール(エルゴステロール)、多糖類(グルクタル)、有機酸、アミノ酸、ミネラル、ビタミンH(ビオチン)などの有効成分を含まれています

    薬理作用としてマクロファージを活性化させて、免疫機能を高める働きがあります。また臨床応用において、抗がん剤との併用により、原発巣胃がんの改善が見られ、食欲が増進して細胞性免疫機能を軽減する作用、免疫低下による副作用を軽減する作用などが報告されています。

    ただし、猪苓は臨床応用のがん治療においては単独で使用することは少なく、他の健利湿薬の生薬と配合されるケースが多く、特に腹水、胸水のある水湿の多いがん治療に用いられます。

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    莪朮(がじゅつ)

    がん細胞を抑制、免疫力を増強する作用を確認

    莪朮は、ショウガ科ウコン属の植物で、その根茎からつくられる生薬で、別名「紫ウコン」ともいわれています。ただし、ウコン(秋ウコン、春ウコン、ターメリック)とは別種です。英語名はホワイトターメリックと呼ばれています。

    ●成分と薬理作用・効能

    主成分は精油(クルゼレノン、セデロン、クルジオンなど)、フラボン配糖体、デンプン、多糖類のモノテルペン類、セスキテルペン類などが含まれています

    薬理作用、臨床応用としては、古くから漢方医学、インド伝統医学(アーユルベーダ)では芳香健胃作用があることから、胃腸障害、消化不良の治療用に用いられてきました。

    また近年、莪朮はがん治療の補助生薬として注目されています。臨床応用では、がん細胞の増殖を抑制する作用と生体免疫機能を増強する作用のあることが分かりました。特に精油成分のセスキテルペン類は、がん細胞を抑制する作用、免疫力を増強する作用が確認をされ、中国で開発された抗がん漢方薬にも生薬成分の一つとして配合されています。

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    枸杞子(くこし)

    薬膳料理には欠かせない滋養、強壮の妙薬

    枸杞子は、ナス科クコ、ナガバクコの果実を精製した生薬です。クコの果実を「津枸杞」、ナガバクコの果実を「西枸杞」と称しています。クコの果実は薬膳料理には欠かせない素材で、粥に入れたり、酒に漬け込んだクコ酒などの食生活にも取り入れられており、古くから滋養強壮の食品としても用いられています。古典医学書『本草綱目』には、長寿の妙薬という記載があるほどです。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はカロチノイド、ベタイン、β-シトステロール、リンレイ酸、ビタミンB1、カルシウム、リン、鉄分など多くの成分を含んでいます。漢方では古くから滋養強壮の妙薬、長寿薬として珍重されてきました。臨床応用では滋養、強壮薬として、肝腎を補強する作用があります。

    薬理作用としては血圧降下作用、四塩化炭素誘発の肝障害抑制、副交感神経遮断などの作用が認められています。がん治療においては、肝細胞内の脂肪沈着を抑制して、肝細胞の新生を促進する作用が報告されています。

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    天南星(てんなんしょう)

    去痰、鎮静作用で抗腫瘍、脳卒中などに臨床応用

    天南星は、サトイモ科に属する植物で、この植物の球根を輪切りにして、石灰をまぶして乾燥させた生薬です。漢方古典医学書『神農本草経』では「虎掌」の名で収載されており、後の『開宝本草』(1973年)に初めて「天南星」の名で生薬として収載されています。生姜を加えたものを「製南星」、牛の胆汁を加えたものを「胆南星」という呼び方をしています。

    なお、天南星の球根にはシュウ酸カルシウムの針状結晶が含まれていて、それが有害成分なので、石灰を加えることで中和しています。

    ●成分と薬理作用・効能

    天南星にはデンプン、サポニン、カリウム、カルシウム、アミノ酸などの成分が含まれています。薬理作用として去痰、鎮静、抗腫瘍作用があります。

    漢方の臨床応用として鎮痙、去乱除湿薬として、中風(脳卒中)による半身不随、破傷風などに用いられています。また粉末を外用して、鎮痛、消腫の効果があるとされています。また近年、腫瘍に対する補助治療薬として用いられ、去痺、鎮痛作用に効果があるという報告があります。

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    半枝蓮(はんしれん)

    白花蛇舌草と処方され、抗がん漢方として応用

    半枝蓮は、シソ科の全草を乾燥させた生薬です。中国の江蘇、浙江、福建、広西などでは古くから民間薬として用いられてきました。同じシソ科のコガネバナ(生薬名「黄ゴン」)やタツナミソウは近縁の植物で、同じように用いられることがあります。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分は、フラボン類のスクテラレイン、スクテラリン、カルタミジンをはじめ、ステロール類、タンニン、それに微量のアルカロイドが含まれています。

    薬理作用は清熱解毒、化瘀止痛の作用があり、臨床応用として解熱、解毒、鎮痛、止血、抗炎症薬として、また肝炎、肝硬変などにも用いられています。抗腫瘍作用として肺がん、胃がんなどに有効であると認められ、特に急性顆粒型白血病細胞抑制作用があることが報告されています。

    半枝蓮は、がん治療においては白花蛇舌草と処方されることがあり、胃がん、大腸がん、肝がんなどの消化器系のほか、肺がん、乳がん、子宮がんなどに効果を示し、抗がん剤の補助作用や進行ががん治療などにも臨床応用されています。

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    威霊仙(いれいせん)

    「威」は性質が猛、「霊仙」は効果が早い

    威霊仙は、キンポウゲ科センニンソウ、シナボタンヅルなどの根を乾燥して生薬としたものです。根は一株に細長い根を群生させた黒褐色で、中国では「鉄脚威霊仙」と称しています。生薬名の「威」はその性質が猛、「霊仙」はその効果が素速やかなところからきています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はアネモニン、アネモール、ステロール類、トリテルペン、糖類、サポニン、フェノール類、アミノ酸などの有効成分が含まれています。薬理作用として血圧降下作用、血糖低下作用、鎮痛作用などがあげられます。

    臨床応用としては、神経痛、リウマチ、通風による関節痛や筋肉痛、手足のしびれ、脳卒中の後遺症による半身不随、言語障害、四肢の関節痛や関節の運動障害に伴う関節リウマチに臨床応用され、高い効果を上げてきました。

    また威霊仙は作用が激しいところから、虚弱体質の人や服用時には、他の薬との併用はしないようにしてください。

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    葛根(かっこん)

    風邪の特効薬として「葛根湯」が有名

    葛根は、マメ科クズの根、中国ではシノナクズの根からつくられる生薬です。これを粉にしたのが「粉葛根」で、日本でも風邪などの時に飲む「葛湯」として知られています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はフラボノイド、トリテルベノイド、イソフラボン、ダイズイン、プエラリン、テンプンなどです。

    薬理作用は解熱作用が最も知られており、身体を温め、血行をよくする成分や効果があるので、漢方薬の「葛根湯」として、風邪や冷え症対策として珍重されてきました。「葛根湯」は古典医学書『傷寒論』にも記載されているほど、古くから他の生薬と処方され、風邪に特効のある漢方薬として用いられてきました。

    臨床応用としては、発熱、解熱、鎮痛作用があり、これらの風邪の特効薬として、また風邪の諸症状である筋肉痛、肩こりなど筋肉を緩めることにも用いられています。さらに消化器運動亢進、血圧降下作用などが認められており、イソフラボンの有効成分が更年期障害や骨粗鬆症、糖尿病、乳がん、子宮がん、前立腺がんの改善に役立つという報告もなされています。

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    桂枝(けいし)

    ニッキ、シナモンとも呼ばれる生薬

    桂枝は、クスノキ科ケイの樹皮、小枝を精製してつくられる生薬です。桂皮ともいわれ、ニッキ、シナモンとも呼ばれています。漢方生薬としてはケイの小枝からつくられるものを「桂枝」、樹皮からつくられるのを「肉桂」と呼んでいます。また樹皮を水蒸気で蒸留してつくられるのが「ケイ油」で、食用香料として用いられています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分は精油、シンナムアルデヒド、オルトメトキシシンナムアルデヒド、ジテルペノイド、タンニンなどが含まれています。

    薬理作用としては鎮静、鎮痛、抗菌、眼瞼下重、血圧降下、呼吸促進、覚醒作用などのほかに、解熱作用、健胃作用があります。

    臨床応用としては、ストレス性潰瘍抑制、発汗増強、末梢血管拡張に用いられています。また発汗、解熱、芳香性健胃、駆風薬として、頭痛、発熱、のぼせ、感冒、疼痛などの薬として用いられています。桂枝を用いる漢方薬は多数あり、なかでも桂枝湯、桂枝茯苓丸、案中散などが知られています。

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    柴胡(さいこ)

    鎮痛、解熱など多くの漢方薬に使われる生薬

    柴胡は、セリ科ミシマサイコの根から精製される生薬です。ミシマサイコは日本で野生していますが、生薬として使用されるのは品種改良して栽培されたものです。ミシマサイコの名は、静岡県三島付近で採れるものが良質であったことからです。中国産は「唐柴胡」と呼ばれるマンシュウミシマサイコが生薬となります。

    ●成分と薬理作用・効能

    柴胡にはサポニン(サイコサポニン)をはじめ、脂肪酸、ステロイドなどの成分が含まれています。

    薬理作用は解熱、解毒、鎮咳、利尿、抗炎症、中枢抑制、ストレス性潰瘍抑制、抗消化性潰瘍、肝障害改善作用など、実に多くの薬理作用があります。

    臨床応用では解熱、解毒、鎮痛薬として、多くの漢方薬の処方に用いられています。

    漢方の処方としては、小柴胡湯、大柴胡湯などの漢方薬は、古典医学書の『傷寒論』や『金匱要略』に記載されているなど、解熱、鎮痛薬として古くから知られています。

    また柴胡は肝臓薬として用いられ、肝機能のアンバランスを調整する作用があります。

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    地黄(じおう)

    六味地黄丸、八味地黄丸の処方が有名な生薬

    地黄はゴマノハグサ科アカヤジオウの根を生薬としたものです。地黄には3つのタイプがあり、根を陰干ししてできるのが生地黄、生地黄を天日干したのが乾地黄、乾地黄を蒸らして乾燥したものを熟地黄と呼んでいますが、一般的に地黄と呼ばれているのは乾地黄のことです。

    ●成分と薬理作用・効能

    主成分はイリドイド配糖体のカタルポールで、そのほかカロチノイド、ステロール、ビタミンA、脂肪酸、アミノ酸などが含まれています。

    薬理作用として血糖降下、血圧降下、血液凝固抑制、利尿、抗菌、抗腫瘍作用など、多くの作用があります。

    臨床応用としては補血、強心、解熱薬として、貧血、吐血や虚弱体質改善などに用いられます。

    また漢方薬の処方として六味地黄丸が知られており、なかでも八味地黄丸は高齢の人の頻尿や排尿困難などに用いられています。

    ただし、明代の漢方医学書『万病回春』では、地黄は三白(ネギ、ニラ、ダイコン)との併用を禁忌としています。

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    生姜(しょうきょう)

    身体を温める作用があり、消臭、毒消しにも活用

    生姜は、ショウガ科ショウガの根茎からつくられた生薬です。現在、多く用いられているのは、根茎の皮をはいで乾燥させたものです。古くは生の根茎を生姜、皮をはいで乾燥させたものを乾生姜、蒸らして乾燥したものを乾姜と区別していましたが、現在の生薬に用いられるのは乾姜で、「乾生姜」と呼ばれています。なお、一般的には、古くから香辛料として日本料理や中国料理で、魚や肉の臭い消しや毒消しとして用いられてきたり、飲料用のジンジャーエールとしても知られています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分は辛味成分であるジンゲロール、ジンゲロン、ショーガオールなどが含まれています。

    薬理作用としては中枢抑制、鎮痛、鎮静、抗菌、嘔吐抑制などがあげられます。臨床応用では芳香性健胃、矯味、食欲増進、発熱、鼻づまりなどに用いられます。また新陳代謝機能を促進する作用があります。

    中国では生姜は紀元前500年ころから薬用として用いられてきた記録もあり、健胃作用、鎮吐作用があることが古くから知られていました。

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    川芎(せんきゅう)

    婦人病の妙薬よして多く用いられ、四物湯が有名

    川芎は、セリ科センキュウの根茎を湯通しして乾燥させた生薬です。漢方医学の古典中の古典書である『神農本草経』では、「窮芎」(きゅうきゅう)という原名で収載されていましたが、四川省産のものが良質で有名なことから、川芎の名が通用されるようになりました。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分は精油成分の中のリグスチリド、ブチリデンフタリド、ブチルフタリド、ネオクニジリド、センキュウノリドなどが含まれています。

    薬理作用は鎮静、血管運動中枢、呼吸中枢促進、末梢血管拡張、免疫活性化作用などがあります。

    臨床応用としては、古くから婦人病、いわゆる血の道の薬として用いられ、冷え症、貧血、生理痛、月経不順などに用いられてきました

    また漢方処方として川芎に当帰、芍薬、熟地黄を配合した四物湯は、瘀血を去り、気血の流れをよくする妙薬として知られています。

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    大黄(だいおう)

    正倉院に保存されているほど古くから伝わる生薬

    大黄は、タデ科ダイオウ、ヤクヨウダイオウ、チョウセンダイオウの根茎から精製された生薬で、中国では「正品大黄」として薬局方(『中国薬典』)に規定されているのは、この3種です。

    大黄は世界的にとても古い時代から薬用として使われてきた生薬で、中国では春秋戦国時代という古い漢方医学書『山海経』に記載されており、ヨーロッパでは『ギリシア本草』という古い文献に記載されています。日本への渡来は、正倉院に良質な大黄が保存されていることから、奈良時代に輸入された生薬のようです。同類の生薬としてセンナがあります。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はジアントロン誘導体、アントラキノン誘導体、ナフタリン誘導体、スチルベン誘導体、エモジン、アロエエモジン、デオキシラポンチシンなどが含まれています。

    薬理作用としては抗菌、瀉下、血中尿素窒素低下、抗炎症、鎮痛作用があります。臨床応用として緩下、健胃薬として、また通利を促し、便秘による腹痛などの要薬です。

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    大棗(たいそう)

    「百薬に和す」といわれるほど処方される生薬

    大棗は、クロウメモドキ科ナツメの果実から精製された生薬で、種子は酸棗仁という生薬になります。韓国では薬膳料理として、日本でも知られているサムゲタンの材料に使われるほか、砂糖、蜂蜜と煮たもののデジュ茶(ナツメ茶)として飲用されています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はサポニン、トリテルペノイド、糖類、サイクリックAMPを含んでいます。薬理作用として、抗アレルギー、抗消化性潰瘍、抗ストレス作用などがあげられます。

    臨床応用としては、滋養、強壮、鎮静、補血薬として、また筋肉の急迫、牽引痛、知覚過敏の緩和、鎮咳、身体の痙痛、腹痛、胃腸機能の調整に用いられています。

    また利尿作用もあり、婦人病のなかでも更年期障害の改善に役立つ生薬です。

    大棗は「百薬に和す」といわれるほど漢方薬の処方として、異なる生薬の成分の薬理作用をやわらげます。特に作用の強い生薬に配合、処方することで、消化機能に対する刺激を少なくする作用があり、また味を調整することから、多くの処方に配合される生薬です。

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    当帰(とうき)

    当帰芍薬散は婦人病の妙薬として古くから有名

    当帰は、セリ科トウキの根から精製された生薬です。中国産ではカラトウキの根からつくられます。全草にはセロリに似た強い芳香をもっています。古くから婦人病の妙薬として、多くの漢方処方に用いられている重要な生薬の一つです。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分は精油を含有しており、その構成成分はリグスチリド、n-ブチリデンフタリドなどです。またクマリン誘導体としてベルガプテン、スコポレチン、ウンベリフェロンなど、ポリアセチレン化合物としてファルカリーノ、ファルカリンジオール、ファルカリノロンなどを含んでいます。

    薬理作用は鎮痛、抗炎症、解熱、血圧降下、眼圧降下、抗アレルギーなどの作用があります。臨床応用としては駆瘀血、強壮、鎮静、鎮痛薬として、貧血症、腹痛、身体疼痛、月経不順、月経困難、月経痛、血行障害のほか、更年期障害にも応用されます。

    当帰の処方として有名な漢方薬の当帰芍薬散は、古くから婦人病の妙薬として古典医学書『金匱要略』にも記載されています。

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    半夏(はんげ)

    吐き気止めの妙薬として小半夏湯に処方

    半夏は、サトイモ科カラスビシャクの根茎を精製した生薬です。根茎の玉が白く、色の白いものが上品とされ、なかでも中国、四川省産が最大産出量で品質も良好とされています。カラスビシャクは日本に多くの野生品種がありますが、生薬となるのはほとんどが中国産です。カラスビシャクの花がサジのような型(シャク)ようなところから名が付けられました。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はフェノール類のホモゲンチシン酸、ホモゲンチシン酸配糖体など、アルカロイドのエフェドリン、それにアミノ酸、糖類、デンプンなどが含まれています。

    薬理作用としては、制吐、唾液分泌、鎮咳、胃潰瘍抑制、抗炎症作用などがあります。

    臨床応用としては、鎮嘔、鎮吐、鎮静、去痰薬として用いられています。とくに胃内停水がある嘔吐、心悸、目眩、頭痛、急性胃カタル、咽喉腫瘍、不眠症などに用いられます。また去痰薬として慢性気管支炎、気管支拡張に用いられます。古くから半夏は吐き気止めの妙薬で、生姜を加えて飲みやすくした漢方薬の小半夏湯が有名で、つわりにも用いられます。

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    茯苓(ぶくりょう)

    桂枝茯苓丸は利尿の妙薬で、血糖降下作用もあり

    茯苓は、サルノコシカケ科マツホド(松塊)の菌核を、そのまま乾燥してつくられた生薬です。この菌はマツ属の植物の根に寄生して、通常は伐採後3,4年を経った樹の根に菌核をつくりますが、生きた樹の根にも菌核がつくられることもあります。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はβ―グルカンの多糖体パキマンが主成分です。このほかトリテルペノイドのパキミ酸、エブリコ酸、デヒドロエブリコ酸などが含まれています。

    薬理作用としては、血糖下降、利尿、鎮静、滋養、強壮作用などがあります。

    臨床応用として利尿、健胃、鎮静薬として、また排尿異常による浮腫、頻尿、めまい、心悸亢進、胃内停水などに用いられます。

    漢方処方としては、漢方薬の桂枝茯苓丸が有名で、『金匱要略』にも利尿の妙薬として記載されています。また、八味地黄丸、十全大補湯、四君子湯、案中散など、多くの漢方薬に処方される生薬です。

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    芍薬(しゃくやく)

    立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花……

    芍薬は、ボタン科シャクヤク、シベリアシャクヤクの根から精製される生薬です。その加工方法によって、コルク皮を除去して乾燥したものを「白芍」、皮つきのものを「赤芍」、コルク皮を除去し、湯通しして乾燥したものを「真芍」と呼びます。

    なお、芍薬は美しい花を咲かせるから、美女の形容として「立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花」などと称されています。

    ●成分と薬理作用・効能

    成分はモンテルペン配糖体のペオニフロリン、オキシペオニフロリン、ベンゾイルペオニフロリン、アルビフロリンなどが含まれています。

    薬理作用としては、抗炎症、抗菌、血圧降下、鎮静、抗痙攣、ストレス性潰瘍抑制作用、婦人病の月経不順などがあります。

    臨床応用として、白芍は養血、止痛などの効能があり、赤芍は活血、行滞に効能があります。漢方処方としては当帰と配合した当帰芍薬散や甘草と配合した芍薬甘草湯などが知られています。

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